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2006年08月06日

vol.17「この見事なる職人気質(かたぎ)」

洗い放談
「この見事なる職人気質(かたぎ)」

 今秋「ピエール・カルダン対テッド・ラピドス」という文句を見かけた人は少なくなかろう。むろんこれはプロボクシングの試合ではない。カルタンは去る十月八日、高島屋の招きで三たび日本にやってきたデザイナーである。
 一方のラピドスは西武百貨店に四年もわらじをぬいでいる紳士服のデザイナーである。いうなればこのご両人は日本で紳士服既製服選手権を争おうというものである。
 カルタンはもともとオーダー(注文)による一作主義者で婦人科専門であった。それが四年前に紳士服に進出した。


 デザイナーといえば、いかにも芸術的に聞こえる。ましてカルダンのように一作主義者になると、いっそうその感を深くする。このカルダンという男、高島屋との契約料は六万ドル(二一六〇万円)である。
 デザイン科を既製服の何%にみるのかは知らない。しかし二千万円の契約料は高くはない。それというのは「カルダン紳士服」なるものを売り出す高島屋は年間三億円の売りあげを目標としている。するとこのデザイン料は一〇%以下である。型紙の数でいうと二〇種の契約をしているといわれるから、一型紙あたりにして一〇〇万円である。
 カルダン服はスーツ上下で一万七千円から二万三千円のあいだをねらっている。解説者によるとジャケット(上着とか背広上とかはいわない)はからだにそったすそ広がりのラインで、タケは長め、肩はなだらかでワキのきりこみが深い。スラックス(これもズボンなどとヤボな言いかたはしない)はマタがみが浅く、スソは折り返しがない。
 ところで、こうしたカルダン・ルックが日本の若い層にひとつの流行詞をもたらすかどうかは別として、ここで取りあげたいのは、彼のデザイナーとしての職人気質のことである。
 「芸術よりもソロバンとカルダンはオーダーによる一作主義者であったから量産の既製服などとなるとおそらく彼の芸術家肌が許さなかったであろう。つい五年前の彼は既製服といえばヤボの骨項としていたことと思われる。
 その彼が海を渡ってニューヨークヘ、さらに東京へと上陸してきたのは、一作主義の芸術家としてでなく量産主義の既製服の型紙職人としてであった。でなければ、だれも二千万円という金を出すはずがない。  カルダンのえらさは、芸術もソロバンと大衆には勝てないと観念して、さっさと型紙職人に転向したことである。彼の地位がパリの服飾界で有名であればあるほど、この芸当はなかなか難しいことであったことであろう。
 筆者はまだカルダン・ルックにお目にかかったことがない。もとより幅が一二センチもあるというカルダン・ネクタイなどしめればイキになるよりヤボになるほうが早かろう。だが芸術をソロバンと大衆性におきかえたカルダンの時代感覚は、きっと高島屋のはじいたソロバンの高を満たすものがあるにちがいないと思う。  西武のかかえたラピドスは昨年三万五千着、五億七千万円の実績をあげた。ことしは年末までに一一億円にのせるということである。
 その既製服も一万六千円のジュネス(若向き)を主力製品としている。もはや芸術だといって少量主義では通らない今日の時代を示している。
 クリーニング業界には芸術とはいえないが、そういう気質(かたぎ)の職人はいっぱいいる。そして機械仕上げのお粗末をさかんにケチつけている。しかし今日という時代は、芸術性に生きるより前に、人間として生きていかねばならない。つまり職人として仕事が見える目で、時代を見なければならない。それは一点一点にうちこむ技りょうを量産やスピードにおきかえる技りょうにしなければならない。
 つまり今日を生きる職人気質でなければならない。カルダンが二千万円に値するのは、二〇枚の型紙でなく、この時代を見ぬく職人としての目である。クリーニング業界の職人としての目にどうしてこの目がないのか。ハンドアイロンをかかえて時代の底に沈潜しようというのか。それではあまりにも長い修業の月日が生かされないでもったいない。
 職人気質とはそんなに融通のきかぬ、ちっぽけな根性で時代にたいして目の見えないことをいうのであろうか。

著作:全国ドライ新聞社

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